明神ヶ岳~金時山の稜線を歩くコース詳細

山紹介

首都圏の奥座敷である温泉観光地として、あるいは年始の箱根駅伝のイメージが強い箱根ですが、実は山域の尾根筋は登山道が発達しており、観光として何度も足を運ばれたあとでも、今までとは少し異なる視点から地域に触れることができるエリアです。

目次

箱根の魅力は「温泉観光」だけではない

レジャーとしての近代登山が盛んになる前にも、既に箱根は交通路として「峠越え」がなされており、例えば今から約400年前の江戸時代には、徳川幕府による五街道の1つとして再整備された東海道(江戸から京都)が箱根を越えておりました。(『箱根八里は馬でも越すが・・・』のフレーズは有名です。)また、江戸時代以前にも東と西を繋ぐ交通の難所となっており、その東海道としての経路も、尾根筋から沢筋へと時代とともに変化してきた歴史があります。

湯坂路は尾根筋を行く旧街道の箱根越え(入口は国道1号に面している)

一方で自然環境ですが、調査の性質上困難が伴うことから、箱根の火山活動開始は諸説あるようです。

概ね40万年以前~数十万年前(どうやら「北京原人」の時代)に活動を開始、マグマの噴出と山体の陥没を繰り返し、阿蘇山で同じみの「カルデラ(箱根最高峰「神山1,438m」や大涌谷周辺が中央火口丘、今回の記事で紹介するコースは最も古い外輪山のエリア)」が形成されたとのことです。

2015年には、中央火口丘の大涌谷周辺でごく小規模な水蒸気噴火も見られ、周辺の登山道が現在も通行止となっており、現在でも大地のエネルギーを感じることができる場所です。
また全域で富士箱根伊豆国立公園に指定されており、環境への配慮も必要な地域です。

よって、ひとくくりに「箱根」と言っても「金時山1,212m」(♪足柄山の金太郎~)を始めとした様々なピークの集合体となっており、テーマとともに複数のコースをとることが可能です。

歴史を感じたい方向けコース

  • 神奈川県・箱根湯本~静岡県・三島(いわゆる「東海道」を味わいたい方向け)
  • 箱根湯本~湯坂路・浅間山(新規外輪山)(鎌倉時代の東海道を味わいたい方向け)

大地のエネルギーを感じたい方向けコース

  • 中央火口丘、大涌谷~冠ヶ岳~神山(現在、火山活動の活発化により周辺登山道は通行止め。)
  • 古期外輪山、箱根湯本~明星ヶ岳~明神ヶ岳~金時山~ぐるっと箱根峠まで

今回は、〔大地のエネルギーを感じたい方向けコース〕『古期外輪山、箱根湯本~明星ヶ岳~明神ヶ岳~金時山~ぐるっと箱根峠まで』のハイライト区間である、「明神ヶ岳(1,169m)~金時山(1,212m)」を取材しました。このコースは、箱根火山が生み出した山岳展望や緩やかなカルデラ古期外輪山の稜線歩きを楽しむことができ、特に終盤の「金時山」は、そのアクセスの容易さから、初心者からリピーターまで幅広い支持を集め、仙石原(金時神社を含む2か所)や乙女峠からの短縮コースも有名です。

※各コースの登山を計画する際は、必ずコースタイム・累積標高・山小屋の位置などを調べ、安全第一でおねがいします。

モデルコース一例(古期外輪山:宮城野~明神ヶ岳~金時山~金時神社)

コース概要

出典:ヤマプラ(情報を付加)
  • 宮城野~明神ヶ岳~矢倉沢峠~金時山~金時神社、距離約11.5㎞、約6.5時間(休憩のぞく)
    ※途中、アップダウンのある縦走区間を含みますので、他の山域での登山経験が望まれます。

アクセス

  • 公共交通

バスが便利です。
箱根登山鉄道「箱根湯本駅」から、箱根登山バス「桃源台」行きで約15~20分、「宮城野営業所前」バス停で下車となります。(※バス便数は10~15分に1本程度。)箱根登山鉄道をそのまま乗車の場合は、終点強羅駅から徒歩20分程度となります。

※最新の運行状況については、箱根登山鉄道および箱根登山バスの公式情報をご覧ください。

箱根登山鉄道はスイスのレーティッシュ鉄道とも姉妹提携
  • マイカー

宮城野周辺に登山者専用駐車場はありません。

今回ご紹介コースの終着点、金時神社付近には登山者も利用可能な有料駐車場もあるため、紹介コースの逆回りをし、下山口の宮城野付近からバス&徒歩(「桃源台」行き乗車、途中「仙石」下車徒歩約1㎞)で駐車場に戻ることは可能です。ただし、疲労のたまるコース中盤以降、全くエスケープルートがない状況になってしまうため、注意が必要です。

  • コンビニとトイレ(登山口付近)

「宮城野営業所前」バス停に公衆トイレあり。
※登山道に入ると、「矢倉沢峠」「金時山」2箇所にトイレはありますが、山行後半に集中します。
バス停の向かい側にコンビニエンスストア(大手チェーン)あり。

夏季は暑さ対策も忘れずに
登山口の標高は約450m、稜線でも1000m級のため、夏期(特に7月、8月)はかなり蒸し暑いです。十分な水分補給と休憩をとり、無理をせず、熱中症等を予防することが大切です。

まずは明神ヶ岳への登り

登山口はバス停から程よい近さにあり、要所々々に登山口への指導標があります。住宅地を抜けると、まずは一つ目の目的地、明神ヶ岳を目指す登山道が始まりますので、ずんずん登っていきます。

最初は宮城野の住宅街の中を進む

始めは別荘地の裏手の鬱蒼とした道を登っていきますが、足場は割としっかりと整備されている印象でした。

樹林帯で木陰の道です。特に分かりづらい箇所はありませんが、開けた場所は少なく少し急な登りが続いていきます。
静かなウォーミングアップルートとでも言いましょうか。ここは辛抱が必要です。しばらく登ると、明神ヶ岳と明星ヶ岳をつなぐ稜線にでます。登山道から目の前に道標が見えてきたら、ちょっと一息。

展望の開ける稜線まで辛抱が必要

金時山まで175分。まだ意外とあるなぁ・・・。

しかし、コースタイムにばかり気を取られても、心の余裕は失われ、安全上好ましくはないですし、何よりグループ登山の場合は徐々に空気が怪しくなってきます。早出早着、時間に余裕を持つことが大切です。

コースタイムは人それぞれ・・・

しばらく歩くと、このあたりから外の景色も垣間見えるようなってきます。
手始めに噴煙を上げる中央火口丘(写真右端には大涌谷の噴煙も見えます)と強羅の街並み。
火山活動からできた大地に人々の営みと歴史の重みを感じます。改めて見返すと、火山近くの結構すごいところに街が広がっているのが分かります。

中央火口丘と強羅市街地(右上の噴煙は大涌谷)

さて、稜線に合流してからは、60分弱で一つ目の目的地である明神ヶ岳に到着です。いくつかベンチもありますので、目の前に広がる広大な景色や火山活動を眺めながらのブレイクタイムです。

金時山までの稜線歩き(明神ヶ岳~矢倉沢峠)

カルデラの古期外輪山を縦走する

明神ヶ岳から次のポイントとなる矢倉沢峠までは、緩やかなピークをいくつか越えながらも、しばらくの間は下り基調の道が続きます。
目指す先の金時山(写真のお椀型のピーク)が見えているのですが、尾根のアップダウンもみられるので一瞬不安になります(峠まで約5㎞、金時山まで約7㎞)。ただ登山道は全体的によく整備されている印象でした。

ハコネダケの生い茂る縦走路を次のピークへ向かい進んでいく

ここで、登山地図を開いてみることにします。
今いるのは、地図上の「〇」の場所になりますが、進む先を眺めると矢倉沢峠から金時山山頂までの区間は一変し、全般的に傾斜が急になっているのが分かります。(確かに、地図の等高線間隔も狭くなっています。)また、矢倉沢峠の鞍部(低くなっているところ、「峠」「乗越(のっこし)」)付近は展望がよく開けていますが、どうも山頂付近はモコモコと木が生えている様です。
地図記号は確かに、高度を上げるごとに「荒地」から「広葉樹」になっていることが確認できます。また、鞍部から山頂までの標高差は約350mであることも分かります。(国土地理院2.5万分の1の地形図を基に地図が作成されていますので、等高線間隔は10mです。)

出典:国土地理院2.5万分の1地形図(情報を付記)

スマホアプリは、登山経路を指定すると地点間の標高差が一発で出てくるので楽ですが、スマホ故障(山では何が起きるかわからない)や電池切れ時のバックアップとして紙の地図を所持することで、より登山の安全性も増します。

金時山までの、最後の踏ん張り(矢倉沢峠~金時山)

さて、矢倉沢峠まで下りきると、仮設のお手洗い(トイレットペーパーは設置されていないので、要持参)とベンチが設置されているので小休止が可能です。
明神ヶ岳にお手洗いがなく不安になりましたが、ここで一安心です。ここから金時山までは「山頂にトイレあり」の看板も続きますので、来られる皆さま方も不安に思われるのでしょうか・・・。小休止のあと、いよいよ先ほど地図で確認した金時山に向かって登り返していきます。

金時山→明神ヶ岳と計画の際は下山時刻に注意(左上が明神ヶ岳)

ここから少し急な登りが続きますが、来た道を振り返ると・・・こちらも素晴らしい稜線の景色が楽しめます。明神ヶ岳からの長かった道程が一望できます。

※逆回りの場合、左上の明神ヶ岳まで登り基調の縦走路となり、最寄りの下山口「宮城野」までコースタイムで約4時間+休憩時間を要します。山行計画には注意が必要です。

計画変更ヒヤリハット(金時山から計画変更で明神ヶ岳まで)

7月の週末、最高気温は麓の小田原で32度の真夏日。男女4人グループ。
8時に箱根湯本駅に集合、9時半に金時神社を出発。無事に11時半前山頂に到着。
コロナ禍の開放感もあり、十分にランチを楽しんだあと13時前から下山。
登りと違う矢倉沢峠~仙石ルートで下山していたが、コースも短く時間も13時半頃と早かったため、スマホアプリを見ながら「明神ヶ岳」まで足を延ばそうと思った。(4名の内1名は、少し体力に不安を感じていたが、まあ行けるだろうと考え、賛同。)

縦走を始めたものの、途中のアップダウンと暑さにより想定以上に体力を消耗、水残量も少ない中、立ち止まりを繰り返し、想定より遅い16時半に明神ヶ岳に到着し山頂で大休止することになった。

このとき、グループの余裕は徐々に消えているなか、17時過ぎに再出発。途中、赤土に滑り転倒をするも、18時過ぎの日没直前になんとか下山。
ヘッドライトも4人中3人は保持していなかったので危なかった。

さて、登り進めていくと、間もなく樹林帯の中の急な階段が多くなってきます。
途中、公時神社経由の登山道との分岐が出てきます。
先ほど通った矢倉沢峠から仙石原へ降りるルートが最短コースとはなりますが、金太郎こと坂田金時を祭神とする公時神社へ+10分程度で立ち寄ることも可能です。矢倉沢峠からここまで急な登りが続きますが家族連れの方も多くいらっしゃったので、子供の前でへばってはいられません。ここから20分ほど、急登を登り切ると間もなく山頂です。

最後の急登は足下に注意が必要

金時山山頂に到着、そして下山

山頂にたどり着くと、目の前に富士山が・・・・!!!と行きたいところですが、残念ながら分厚い雲に遮られておりました。とはいっても、素晴らしい景色です。

仙石原市街と大涌谷をのぞむ(中央は仙石原のすすき原)

山頂周辺の足元にはゴツゴツと形の荒い色濃い岩(溶岩)が段をなして広がり、足下には起伏のなだらかな仙石原の大地、悠々と水を湛える芦ノ湖、それを取り巻く外輪山の稜線の雄々しさを見渡すことができます。
吹き抜ける爽やかな風を浴びると、ここまでの疲れも吹き飛び、得も言われぬ達成感を感じます。

山頂には『元祖金時茶屋』と『金太郎茶屋』、2つの名物茶屋があります。茶屋の周辺には素晴らしい眺望のベンチがありますので、ここで疲れを癒しながら名物の『まさカリ―うどん』や『大つぶなめこ入りみそ汁』を頼み、景色とともに舌鼓を打ちましょう!

下山路に公時神社経由のコースを選ぶと、金太郎こと坂田金時を祭神として祀る公時神社や、神聖な『奥の院』『金時宿り石』を見学しながら下山することもできます。コースタイムと体力に余裕のある方は、おススメのルートです。

下山後については、山域柄、温泉や食事の場所等に困ることはほぼありません。

おわりに

観光地のイメージが強い箱根山域ですが、実は様々な角度から登山ルートを取ることが出来る山域です。

今回は古期外輪山、明神ヶ岳~金時山の稜線を歩くコースを紹介しました。繰り返しになりますが、夏季は気温が高いため、暑さ対策を万全にしたうえで、火山の織りなす雄大な風景を是非楽しんでください。